雨の日にもはずむ心。デザインがもたらす喜び。

May. 2018 -no.1

雨を楽しみに変えてくれたのは、玄関にある傘でした。

雨の日のおでかけ、ふっと目をやると思わず手に取りたくなるような傘がある。 30代を過ぎてビニール傘をやめたのは、そんな理由からでした。 日差しが強くなり始めた梅雨の前に、ずっと変わらない形で人のそばにある「傘」という道具を見直してみました。

「デザインで暮らしを美しくしたい」

雨や日差しの強い日は出かけるのが億劫になりがち。そんな気の滅入る日を楽しみに変える素敵な傘をご紹介します。 1940年代から60年代、いわゆる「ミッドセンチュリー」と呼ばれる時代に活躍したスウェーデンを代表するデザイナー、スティグ・リンドベリ。彼は生涯で、食器やテキスタイルなどのデザインからアートピースまで、約1万点にも及ぶさまざまな作品を手掛け、まさに現在の北欧デザインのイメージを形づくりました。 今回ご紹介する槇田商店の傘は、リンドベリのデザインを再現した極上の逸品です。 シックな色合いと光沢ある生地はどんな服に合わせても上品で華やかな雰囲気に。先染め糸からなるジャガード織で忠実に再現された繊細な絵柄は傘の内側まで美しく照らします。 細かい柄のグラスや花瓶がいくつも連なるように描かれた「POTTERY」、ひとつひとつ絵柄の異なる果実に自然の成り立ちや敬意すら感じさせる「FRUKTLADA」など、半世紀も前のデザインでありながら、いまなおリンドベリの作品は見る人の心をつかみます。

手作業の傘ができるまで

この傘を生産するのは、山梨県甲州織の老舗織物メーカー「槇田商店」。粋な江戸の町民にも愛された「甲斐絹(かいき)」の繊細な織物技術を現代まで引き継ぎ、富士の湧き水で染めた先染め糸でジャカード織による傘づくりを行っています。槇田商店が150周年を迎えた2017年、奇しくも生誕100周年を迎えたリンドベリとのコラボレーションが実現しました。 糸一本から傘まで 伝統や技術と同じくらい、未来への創造性を大切にしている槇田商店のものづくり。リンドベリの遺族をうならせるほど忠実にデザインを表現し、刺繍のように織り込まれた絵柄は色焼けしにくく、裏地まで美しく仕上げられています。傘を開く瞬間までも楽しみにさせてくれる、そんな傘なのです。 しっかりとUV加工が施されたこの傘は日傘としても活躍し、長く使えるように修理もしてくれます。ものを大切に丁寧に使う心も育まれそうですね。眺めているだけでも嬉しくなる、道具としても永く愛したくなる、素敵なひと品です。

5月の「Fajans」

槇田商店と同じようように、ポトペリーもまたリンドベリのデザインから影響を受け、そのデザインを取り入れながら独自の技術を開発し、1点1点手描きで器づくりをしています。 ヨーロッパ発祥の伝統的な「ファイアンス焼」。柔らかく温かみある質感に、リンドベリは鮮やかなデザインを施し、彼の代名詞となる作品を生み出しました。しかし一方で、当時の技術で生み出したファイアンス焼は脆く、現代のテーブルウェアとして使うには不向きでした。 ポトペリーは10年かけて土と釉薬の研究を重ね、ファイアンス焼の柔らかな風合いを持ちながらも、現代生活に欠かせない電子レンジや食器洗浄機を使用できる耐久性を併せ持った、新しい「Fajans」を生み出しました。 器に描かれた明るい絵柄は「街中にある自然」をイメージ。何気ない日常にある豊かさをモチーフとし、「Fajans」もまた、何気ない暮らしを彩り華やいだ気持ちにさせてくれる食器です。
清澄白河店では企画展に合わせてポトペリーデザイナーが一点ずつ描きおろした限定「Fajans」を数量限定で展示販売中です。 昨年から毎年5月に新作を描いて発表しています。 スウェーデンではオブジェや食器を飾っておいたり、眺めていたりするすることも”使う”という表現をするそうです。日本にはあまり馴染みのないことかもしれませんが、とても素敵な文化だと思いませんか? 持っているだけで、素敵に見えて、大切に使いたくなる。暮らしを少し彩ってくれる。そんな傘や食器を迎えてみてはいかがでしょうか。